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静岡家庭裁判所沼津支部 昭和45年(少イ)11号 判決

被告人 松本光代(昭一五・一・二〇生)

主文

被告人を懲役八月に処する。

但し、三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、熱海市○町×番××号○辺ビル内において、「○ば○マッサージ治療院」を経営しマッサージ業をしているものであるが、法定の除外事由がないのに

第一、児童である○田○枝(昭和二七年六月五日生)を昭和四三年三月二〇日ころから同四五年六月四日までの間

第二、児童である○出○リ子(昭和二八年九月三〇日生)を同四四年三月一九日ころから同四五年五月一〇日ころまでの間

第三、児童である○崎○子(昭和二九年一月二五日生)を同四四年六月二〇日ころから同四四年一一月下旬までの間

第四、児童である○本○子(昭和二八年九月一七日生)を同四四年九月二四日ころから同四四年一一月下旬までの間

第五、児童である○澄○(昭和三〇年二月九日生)を同四五年三月二〇日ころから同四五年八月二九日ころまでの間

それぞれ、マッサージ師見習として雇入れ、右○辺ビル内に住み込ませ、それぞれの期間内、右児童らを同市○○○町××番××号○和ホテルに派遣し、反覆継続して多数回にわたり午後八時ころから翌日午前二時ごろの深夜まで淫ら行為をするおそれのある宿泊客にマッサージする等の行為をさせ、もつてそれぞれの児童の心身に有害な影響を与える目的をもつて児童らを自己の支配下に置くと共に同女児等を午後一〇時から翌日午前二時ころまでの間において右業務につかせて使用したものである。

(証拠の標目) 〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、児童福祉法第三四条第一項第九号、第六〇条第二項に該当すると共に、労働基準法第六二条第一項、第一一九条第一号に該当し、右は一個の行為で数個の罪名に触れる場合に相当するので刑法第五四条第一項前段、第一〇条により重い児童福祉法違反罪の刑に従い、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、所定刑中各懲役刑を選択し同法第四七条、第一〇条により犯情の重い判示第一の児童福祉法違反罪の刑に加重した刑期範囲内において被告人を主文の刑に処する。なお情状により同法第二五条第一項を適用し、三年間右刑の執行を猶予すべきものとする。訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により被告人に負担させるものとする。

(弁護人の主張に対する判断)

被告人の所為は正当業務行為に基くもので放任的行為であるから、児童福祉法違反の違法性が阻却される。

その所為は熱海市において現実に放任され取締られておらず、被告人は違法性の認識を欠き期待可能性は存在しないと主張する。

しかし、被告人の判示児童に関する業務の態様が判示のような場合には明らかに児童の心身に有害な影響を与え、その福祉を害すべきものであり、業務の正当な範囲を逸脱するものであつて児童福祉法第三四条第一項第九号に抵触し、主張のように違法性を阻却すべき筋合のものではない。

また、被告人は判示所為につき、実質的にその違法を認識評価しておることは前掲証拠により認められるところであるから、弁護人の主張は結局法の不知を主張することに帰着し、違法性認識の欠如を前提とする期待可能性の主張は理由がないことは自ら明らかである。弁護人の主張は採用しない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 山本五郎)

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